2011年3月11日の記憶というのは、我々に多くの傷跡を残していきました。私たちルツェルン・フェスティバルは、長年日本と非常に強い友好関係にあります。そのため、東日本大震災の影響を受けた地域と人々のために、自分たちが提供できるものによって何らかの形で復興を支援したいと思いました。 私たちは、ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ プロジェクトを通じて、東北の方々に日常の喜び以上の何かを届けたいと思っています。このプロジェクトは、異なるアートや文化が組みあわさり、建築・デザイン・伝統芸能・クラシック音楽・音楽教育の魅力的な共生となっています。個性的なコンサート・ホールは、ハイクラスなパフォーマンスの場となるだけでなく、多様な文化や人が出会い、その出会いが創造性をはぐくみ、やがて東北地方の文化発展につながっていく場となるだろうと考えています。

ARK(アーク)は“方舟”、NOVA(ノヴァ)は“新しい”を意味する言葉です。

旧約聖書・創世記に登場する有名な大洪水伝説では、主人公ノアが家族や動物たちを方舟に乗せ、洪水の引いた後に虹の掛かる物語が描かれました。この物語に因んで、プロジェクトが再生のシンボルになるよう願いを込めて、「新しい方舟」=アーク・ノヴァと名付けました。もちろんアーク・ノヴァに人や動物を乗せて災害を凌ぐことはできませんが、文化・精神の長期的復興への視点において、この方舟には音楽を中心にさまざまな芸術を詰め込んで巡回させることが構想されました。一方で、日本には民俗学者折口信夫が「まれびと」という言葉で表した鍵概念があることを思い起こしました。異邦からの客人(まれびと)が信仰や祭事をもたらし社会を活性させてきたという概念ですが、芸術発生の原理ともいえます。 アーク・ノヴァは「まれびと」として被災地の津々浦々を訪れますが、土地の方々との交流の中で、各場所を主役とした活動が発生していきます。震災がきっかけのプロジェクトであると同時に、単なる再生を超えて“ARS(アルス=芸術)NOVA(ノヴァ=新しい)が創られる仕組みとなることめざしています。

ルツェルン・フェスティバルは、1938年、ルツェルン湖畔のワーグナーの邸宅前で開かれたアルトゥーロ・トスカニーニ指揮によるガラコンサートに始まった音楽祭です。

続く数十年の間に国際的に重要な音楽祭へと発展をとげ、ヨーロッパ屈指の絶景に囲まれた中世の町に、世界のトップクラスのオーケストラ、指揮者、演奏家たちが集まるようになりました。2001年から正式名を「ルツェルン・フェスティバル」として、春のイースター音楽祭、夏の音楽祭、秋のピアノ音楽祭と年間3つの音楽祭をおこなっています。 ルツェルン祝祭管弦楽団(ルツェルン・フェスティバル・オーケストラ)の歴史も、音楽祭の創立とともに始まりました。クラウディオ・アバド(ルツェルン・フェスティバル・オーケストラ芸術監督)とミヒャエル・ヘフリガー(ルツェルン・フェスティバル芸術総監督)によって創設され、著名な音楽家で構成されるこのオーケストラは、毎年夏に開催されるルツェルン・フェスティバルに参加しています。